放射線療法とお肌の保湿ケア
放射線療法とは、がんの治療の1つの方法です。
そもそも「がん」の治療は、局所療法と全身療法に大別されます。
局所療法とは?
局所療法とは「がんそのもの」に的を絞った治療です。主に病巣が限られている場合に用いられます。
治療方法は、
- 1.病巣を切除する手術療法
- 2.放射線を照射して「がん」を攻撃する(←これが、放射線療法のことです。)
- 3.レーザーの一種である光線力学的療法
全身療法とは?
一方、全身療法とは、病巣が複数確認できたり、全身にがん細胞が浸食している場合などに用いられます。
治療方法は、
- 1.抗がん剤を使用する化学療法
- 2.自己の免疫細胞を活性化して使用する免疫細胞療法
放射線治療を受けたら守りたい3つの重要なお肌ケア
皮膚の保清・保湿・保護
放射線の照射部の皮膚が汗や排泄物などで湿っていたりして不潔な状態になっていたり、
傷の痕などで皮膚が凸凹していると皮膚炎が出現しやすくなります。
衣類や皮膚同士が擦れやすい部位や、シワが多い部位なども皮膚炎が出やすい部位として注意が必要です。
また、低栄養の場合は皮膚炎が強く出やすく治りも遅くなりがちなので、しっかりと栄養をとるように心がけましょう。
高齢者は加齢に伴う皮膚の脆弱性・乾燥などから皮膚炎が生じやすくなります。
血糖コントロール不良の糖尿病は有害事象が強く出現する傾向があります。
活動性の膠原病は組織障害が増悪しやすいとされており原則禁忌となっています。
喫煙は皮膚治癒に悪影響を及ぼすといわれています。
皮膚炎悪化予防のためのセルフケアが実行できない場合も皮膚炎が悪化しやすくなります。
基本的には、皮膚の「保清・保湿・保護」をきっちり行いましょう!
マーキングが消えてしまうことを恐れて放射線治療中に照射部を洗わなくなってしまう人がいますが感染予防のためにも清潔保持は大切です。
《保清のポイント!皮膚は清潔に》
皮膚が汚れたら洗いましょう。
石鹸は低刺激性(添加物が少ない、弱酸性)のものを使用します。
石鹸はよく泡立てましょう。
・石鹸を泡立てる前には手を洗いましょう。
・泡は手のひらいっぱいに作ります。
・逆さにしても泡が垂れないような硬さが必要です。
・泡状で出てくるポンプ式の石鹸を利用しても良いでしょう。
・泡を照射部の皮膚に乗せ、しばらく置いてから洗い流すようにします。
※泡で汚れを落とすようにして、ごしごし擦らないように注意します。
《保湿のポイント!皮膚を乾燥させない》
保湿ケアに使用するローションやクリームは香料や添加物が少なく、アルコール成分が入っていないものを選び、たっぷり塗りましょう。
手洗いや入浴後は水分の押さえ拭きを行い、皮膚がしっとりしているうちに保湿ケアをしましょう。保湿剤を使用したら手袋や靴下で皮膚を保護するとより良いでしょう。
熱いお湯(40度以上)の使用は避けてください。
保湿に関しては下記のような研究発表があります。
※保湿ローション・クリームの使用に関しては担当医と相談のうえ行うようにしましょう。
放射線皮膚炎に対する保湿クリームの効果—耳鼻科領域の頭頸部照射の患者に保湿クリームを使用して
2011年1月〜2013年9月に頭頸部に放射線治療を実施し(気管孔のある患者,および頸部全体が照射野に入らない喉頭がん以外の症例を除く),研究の同意が得られた患者33名を対象とした.封筒法(封筒に入れた複数のカードの中から患者自身が選択する方法)により保湿クリーム使用群と未使用群に分けた.保湿クリームは治療後と眠前に撫でるように塗布することを患者に指導し,照射時に自覚症状と他覚症状を観察した.皮膚障害の程度は,「症状なし」を「0」,「症状あり」を段階的に「1〜6」に点数化し,照射ごとに加算した.さらに,保湿クリーム使用群16名と未使用群17名の皮膚障害の程度を比較し,統計的に分析した.その結果,保湿クリーム使用群は自覚症状,他覚症状ともに出現頻度が低く,出現時期が遅かった.また,両群の線量が進むごとに加算した皮膚障害の程度の点数を照射線量ごとに検定を行った結果,60Gy以上で有意差があった.さらに,保湿クリーム使用による皮膚炎の悪化は認めなかったことにより,放射線皮膚炎に対して保湿クリームは有効であることが分かった.保湿クリームは,放射線皮膚炎の進行を抑制する効果があり,皮膚炎による苦痛の軽減につながった.
日本がん看護学会誌:齊藤 真江1, 林 克己2:1防衛医科大学校病院看護部:2防衛医科大学校放射線科
発行日/Published Date: 2015/5/25
《保護のポイント!皮膚への負担はなるべく避ける》
皮膚の刺激となる例を少し挙げます。以下のような刺激を避けるようにしましょう。
紫外線/ ケガ、虫刺され/ 不潔な状態でいること/ 摩擦/締め付けること(継続して圧迫すること)/ 喫煙/ など
重要なポイントとして「掻かない」
掻痒感が出現すると、つい掻いてしまうことがあるため皮膚を傷つけないように普段から爪は短く切っておくようにしましょう。
また、皮膚炎が軽減するわけではありませんが、掻痒感の緩和のために冷やすと一時的ですが落ち着きます。※照射直前直後は避けてましょう。
ステロイド軟膏の使用にはさまざまな意見がありますが、掻痒感が強い場合はうっかり掻いてしまうことを予防する目的で使用をすすめる病院もあるので、
あまりに掻痒感が強い場合は、一度、担当医に相談してみましょう。
放射線を当てていた皮膚のケア方法
放射線治を当てていた皮膚は「日焼け」の状態の皮膚に似ていると言われます。
皮膚の炎症は放射線治療が終了して約1ケ月ほどで落ち着きますが、皮膚を健康な状態に近づけるためにも、保湿や保清(清潔保持)は、放射線治療が終わっても続けることが大切です。
保湿クリームやローションなどは、乾燥した皮膚の水分を調節する働きがあり、毎日継続して塗り続けることで効果が得られます。
皮膚炎がおさまっても治療後の約1年ほどは皮膚の乾燥が強い時期が続くので保湿クリームやローションなどでお肌を保湿するのを忘れずにおこないましょう!
保湿する時にお肌のバリア機能をサポートするセラミドなどが配合されているものなどを使ってみるのもおすすめです。
保清・保湿・保護
この3つのセルフケアに気をつけましょう!
※保湿を行う際に、ローションや保湿クリームを使用する場合は、無添加・低刺激の物でも、担当医としっかり相談してから使用するようにしましょう。
放射線療法の特徴
放射線療法は、がんの「腫瘍の成長を遅らせる」「腫瘍を縮小させるため」に放射線を使用する治療方法です。
特徴的なのが、
- 1.がんに侵された臓器の機能と温存が可能。
- 2.局所療法なので全身的な影響が少ない。
- 3.高齢者にも適応可能なやさしいがん治療方法。
手術で患部を切除しなくてもよく、身体の機能や形態を温存させたい時などに利用する事が多い治療法です、そのため、乳がんの治療などにもよく用いられています。
ただし、副作用としてがん局部の正常な細胞も侵害されるため、後遺症が残ってしまう場合もあります。
また、がんの種類によって放射線治療の効きやすさや、治りやすさは様々で、治療の効果も大きく異なってきます、副作用に関しても、その起こり方もさまざまです。病期などでわかるがんの状態や、治療を受けられる方の体調やこれまでの治療の内容などをもとに、放射線治療を行うかどうか、どのように行うかが検討されます。
放射線治療は、単独で行われることもありますが、薬物療法(抗がん剤治療)や手術といった別の治療方法と組み合わされ行われることもあります。
手術を組み合わせて行う場合では、がんの再発を防ぐことを目的に手術の前後に行われたり、膵臓がんなどでは、手術中にがんに放射線を当てる事もあります。
その他、骨に転移してしまったがんの痛みを和らげたり、神経を圧迫してしびれや痛みの原因になっているがんを治療する時にも放射線を使用します。
放射線が、がんを死滅させます。
放射線は、細胞のDNAに作用して細胞が分裂して数を増加させる力をなくしたり、細胞が自ら死んでいく現象を強めたりします。
その結果、がん細胞が死んでいきます。
放射線はがん細胞だけでなく正常な細胞にも同じ働きかけをしますが、がん細胞は正常な細胞よりも放射線から受けるダメージが重く、正常な細胞はがん細胞に比べ、受けるダメージが軽いため、放射線を照射する前の状態に回復するまでの時間が短いのです。
放射線とは?
放射線とは、空間や物質中を波のかたちや粒子でエネルギーを伝播するものを総称する言葉です。電磁波(X線、γ線など)と粒子線(原子を構成する粒子:電子、陽子、中性子など)の2種類に大きく分けられます。
がんの治療に使われている放射線は、X線、γ線、電子線が主で、その他陽子線、重粒子線が研究段階で使われています。
放射線治療の目的
1.放射線治療で根治治療
臓器の形態や機能を温存することが可能な治療です。頭頸部がん、網膜芽細胞腫、悪性リンパ腫、子宮頸がん、肺がん、食道がん、前立腺がん、皮膚がんなどで行われています。
2. 術前、術後治療(手術の前、または後の治療)の補助療法
手術によって散らばる可能性があるがん細胞を殺す為や、がんを小さくし手術を行い易くするために、手術前に放射線の治療を行います。手術後には手術で切除しきれずに残ったと思われるがん細胞を殺し、再発の可能性を下げるために行います。
3.再発治療(手術後の再発に対する治療)
手術をした部位から再発した一部のがんでは、遠隔転移がなければ放射線治療で治癒する可能性があります。抗がん剤と併用して治療することもあります。再発したがんによる症状を緩和する目的でも放射線治療が行われます。
4.全身照射(骨髄移植)
骨髄移植を施行する直前に、免疫力を落とし、生着促進や、再発予防のために行います。
5.術中照射
手術中にがん組織に放射線照射をする場合があります。直接確認して確実にがん組織に照射することができ、がん組織周囲の腸管などの放射線に弱い組織を避けて治療ができます。
放射線治療の方法
放射線治療の方法には身体の外から放射線を照射する外部照射法と、放射線源を直接身体の組織や、食道、子宮といった腔に挿入して治療する密封小線源治療があります。どちらかひとつの放射線治療をすることもあれば、外部照射法と密封小線源治療を組み合わせて治療することもあります。最も多く行われている方法は外部照射法のみで行われる治療です。
治療の期間と通院
放射線源の強さにより、24時間から7~8日にわたって治療する場合と、数分の治療を数回繰り返す場合があります。長時間治療する方法を時間あたりの線量が低いので低線量率といい、短時間治療する方法は高線量率といいます。低線量率で長時間治療している間は、他の人に放射線があたらないようにする必要があります。高線量率の場合は治療するのは治療室内ですが、数分で1回の治療が終わるので、それ以外は一般病室で過ごすことができます。
放射線治療で起こる副作用の1つ放射線性皮膚炎
放射線性皮膚炎とは、放射線の影響により照射部の皮膚に炎症が生じた状態のことを指します。
外照射の場合は、どの部位への照射であっても必ず皮膚を通過するため皮膚への影響が生じる可能性があります。
近年では治療装置や治療技術の進歩で重篤な皮膚炎が生じることは少なくなったそうです。
ですが、頭頸部や外陰部への照射・抗がん剤や分子標的治療薬との併用などでは、びらんや出血を伴う皮膚炎が生じることもあります。
放射線治療の効果を最大限に得るためには、治療計画どおりにおこなっていくことが重要なのですが、放射線性皮膚炎は治療を休止する要因にもなり適切にケアすることが大切なのですが、放射線性皮膚炎についてのケア方法は全国的に統一されたものはなく、施設ごとに施行錯誤しながらケアを提供しているのが現状です。
放射線性皮膚炎が起きる理由
肌は「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層から出来ており、表皮はさらに「角質層」「顆粒層」「有棘層」「基底層」の4層に分かれています。
正常な肌は、ターンオーバーにより基底層にある幹細胞が分裂し、すぐ上の有棘層、顆粒層へと押し上げられ約14日で角質層となり、角質層に到達した細胞は約14日後には垢となって剥がれ落ちていきます。通常であれば、基底層で産生される新しい細胞と脱落する細胞のバランスがとれていて皮膚の厚さは一定に保たれています。
「基底細胞」は細胞分裂が盛んなため放射線の影響を強く受けます。
基底細胞が放射線によりダメージを受けると新しい細胞が作られなくなるため表皮が薄くなっていきます。
そして角質層に達した細胞は放射線のダメージこそ簡単には受けないのですが寿命がきて脱落していってしまいます。
このように、新しく産生される細胞と脱落する細胞のバランスがとれなくなってしまい放射線性皮膚炎が発生してしまいます。
一般的には、放射線治療開始後2週間目頃から放射線量が増えるにつれて症状が強くなっていきます。
真皮の毛細血管が拡張し血流量が増加し皮膚の紅斑がみられるようになったり。皮脂腺や汗腺の機能低下により皮膚は乾燥し、発汗作用が低下することで皮膚温が上昇し熱感が生じやすくなります。そして皮膚の乾燥と皮膚温の上昇は掻痒感を引き起こします。
基底層から新しい細胞が作られずに表皮が薄くなると、皮膚のバリア機能が低下し外的刺激に弱くなります。
さらに乾燥が加わることで角質層の結合力が低下し裂けたり剥がれたりしやすい状態になっていきます。また、真皮が露出すると出血や痛みが生じます。
しかし、基底細胞が少しでも残っていれば再び新しい細胞が産生されるため急性期の皮膚炎は必ず回復します。
放射線性皮膚炎で覚えておきたいことにリコール現象と呼ばれているものがあります。
リコール現象とは,放射線治療終了後に抗がん剤などの投与をきっかけに以前の放射線を照射した箇所の皮膚炎や粘膜炎など、放射線の影響が呼び戻される現象のことです。抗がん抗生物質、アルキル化剤、代謝拮抗薬、微小管阻害薬などにより皮膚、肺、中枢神経系などの発症が報告されています。
皮膚炎が悪化する要因
・皮膚の状態(湿潤・凸凹)
・衣類で擦れやすい部位、皮膚同士で擦れやすい部位
・栄養状態(低栄養・肥満)
・高齢者
・糖尿病
・活動性の膠原病(原則禁止)
・喫煙習慣
・セルフケアの不実行
保清・保湿・保護
この3つのセルフケアに気をつけましょう!
※保湿を行う際に、ローションや保湿クリームを使用する場合は、無添加・低刺激の物でも、担当医としっかり相談してから使用するようにしましょう。